ちょっと良い製品のご注文を頂きました。
造作材を原板でご注文頂き、大工さんが加工をするスタイルが年を追うごとに少なくなってきました。特に都会に行くほど大工さんが加工場を持っていないことが多く、弊社で超仕上げまで施して出荷するケースが増えています。一方、地元栃木県ではまだ大工さんや工務店さんが加工場を所有していて、ご自身で加工することが決して珍しくはありません。
この度、ちょっといい製品のご注文を頂きました。使用用途は那須の別荘の改修工事です。年数は30年以上経っていますが、そのデザインから相当高価な別荘であることが伺えます。
その別荘の敷地にある立派な倉庫の屋根を改修するにあたり、化粧桁のご注文を頂きました。
八溝杉KD 2面無節 4000×110×185 2本
八溝杉KD 3面無節 4000×125×125 2本
納期5日 原板にて納品というご注文でした。
重要ポイントは2点です。1点目は上小節ではなく無節であること。2点目は納期が5日ということです。
私は、芯去り材でご提案しました。芯去材のため高級感があり、かつ桁に使うので柱ほど柾目が通っている必要もないので、通常の柾角よりはお安くできます。そして弊社の在庫品のため、短納期に対応出来ることが理由です。
お客(工務店)様にも、ご理解頂き、4本のご注文に対応させて頂くことが出来ました。
ここで、この手の厚みと幅が広め(断面が大きめ)の製品の作り方を説明しますと、重要ポイントが3点あります。
ポイント1:含水率を水分傾斜がない状態で15%以下にすること
この水分傾斜がない状態にするのが結構難しく、また製材業者でも理解している方が少ない重要ポイントです。そもそも水分傾斜とは、断面の大きな材木が乾燥するときに表面から乾燥していくので、表面の含水率と中心部の含水率が違うことを言います。水分傾斜を少なくするには、時間をかけて馴染ませる(含水率を均一化させる)か、内部の含水率が下がるまで乾燥させて、その後乾燥機内で蒸煮(調湿)して過乾燥になった表面の含水率を上げることをする必要があります。しかし後者は、蒸煮による白太の変色のリスクや過乾燥にする際に材面割れが起こるリスクが伴います。
そもそも含水率15%と聞いて、造作材で15%は甘いだろうと思われた方は、今まで水分傾斜のある材料の表面の含水率を計測して鵜呑みにしていた可能性はないでしょうか。杉の断面の大きな材料で、水分傾斜の少ない状態で含水率15%の製品を作るのは結構難しいことです。
ポイント2:材面割れが起こらないように乾燥させること
同じ造作材でも板のような薄い材料と、今回のご注文のように断面の大きな材料では乾燥時の材面割れが発生するリスクはまるで違います。弊社ではUNDER8という商品名で造作材を作っていますが、窯出し時含水率を8%以下にまで下げるのは、厚み50㎜までです。それ以上の厚みのものは、UNDER8ではありません。ただし、納品後の変形リスクを最小限にするため水分傾斜の少ない状態で含水率15%以下に乾燥させています。
断面の大きな材料で、材面割れを起こさずに含水率を15%にするにはそれなりの乾燥スケジュールが必要です。弊社では、今回の水分傾斜の少ない含水率15%の製品を作るのに、人工乾燥と天然乾燥を組み合わせて1年以上かけました。
ポイント3:白太の変色やカビの発生を防ぐこと
芯去り材であれば、断面が大きくても天然乾燥で含水率15%まで乾燥させることは可能です。ただし、良く乾きやすい環境下(日当たりと風通しが良い環境下)では材面割れが発生するリスクが高まります。また、日陰で風通しが悪いとカビが発生したり、白太に腐朽菌が繁殖して変色を起こすリスクが高まります。材面割れを防ぐには、日陰で風通しがそこそこ良い場所が求められます。
なので弊社では、人工乾燥と天然乾燥を組み合わせて、色艶を損なわず材面割れが発生しないように乾燥材を作っていきます。


このようにして満を持して作った製品ですが、狂い取り(挽き直し)をして納品するときには110×185に僅かな反りが出ていました。今回は腕利きの棟梁に加工して頂けるので何の心配もありませんが、思い起こせばまだまだ乾燥技術が低い時に実に多くの大工さんに面倒を見て頂きました。大工さんに色々な事を教わりながら材木屋としてのスキルを積み上げ、今はまだ未熟ながらも大工さんの代わりに加工をして現場にお届けしています。
時代とともに様々なものが変化していくのは当然なことですが、大工さんが墨付け、刻み、加工をすることが特別なことになるのには寂しさを感じます。

